『おまえもそろそろ限界のようだな』

何者かがサガを嘲笑していた。

『ふふん。あの鏡に、ぼんやりとした影すらも映らないこの小僧を見た時から、こうしたかったんだろう、人格高潔なサガ殿は。ほら、いちばんいいところはおまえに譲ってやろう。思う存分、肉の快感に浸るがいい。さすが冥界の王は粋な罠を仕掛けてくる』

それは、サガの声に似ていたが、サガの声ではなかった。
それが“声”として、自分の聴覚を刺激したものなのかどうかすら、瞬にはわからなかった。
サガが、繋がったままの状態で、瞬を寝台の上に押し倒し、激しく瞬を揺さぶり始める。
死んでいるはずの瞬の身体は、その内側を彼に抉られるたびに、悲鳴をあげて歓んでいた。

氷河と同じ激しさ、氷河と同じ情熱。
そう思うだけで、瞬の心は、瞬の身体を悦びで追い詰めていった。

始めのうちは、それでもその時を先延ばしにしようとして、無意識の作為が加わっているようだったサガの律動が、やがて、その加減を忘れたように大きく激しくなってくる。
瞬の身体は、自分の中に打ち込まれてくるものを捉え絡みつこうとし、そうする前に逃げられて、再び貫かれることを繰り返していた。
それが、やっと終わる。
瞬の身体の奥深くまで入り込んできたものを、もはや逃れられないほどの力で、ついに瞬は捕まえた。
サガが、瞬の耳許で低く呻き、彼の身体の動きが止まる。

(ああ……!)
その瞬間に、氷河と身体を交えた時と寸分違わぬ歓喜を自覚した瞬は、同時に、生きている肉体の活動のおぞましさに嘔吐感を覚えた。


二人の死んだ人間の荒い息がやっと収まりかけた頃、自身の罪を悔い、神に慈悲を求める人間のそれのように、サガの腕が瞬の身体を強く抱きしめてきた。





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