[IV]






その場に残されたのは、二人の青銅聖闘士だけだった。
サガが消えていった空間を自失したように見詰めている瞬の肩を叩いて、氷河は、瞬に、元の世界に戻ることを促した。

「サガはもう、自分の望みのためには蘇らないさ。大丈夫だ」
瞬を侮辱した相手とはいえ、必死に善であろうとした者に悪態をつくことは、瞬の手前、できない。
氷河は、代わりに、瞬の心を落ち着かせるための言葉を捜し、口にした。
これほど幸福な未練を手に入れたサガが、もしまた蘇ることがあったなら──それは、彼の本意ではないに違いない。

「……サガは、善い人として、生き直したいと思っていたのかもしれないね」
「それができないのが人間だ。命は、一つしかない」
「うん、わかってる……」

サガは、最初の命──彼に与えられた本来の生の時間を必死に生きた。
それは結局、アテナへの反逆という形をとって終わったが、彼が自分の生を必死に生きたことに変わりはない。
生き残った者は、それを認めてやればいいのだ。

生き残った者には、それしかできない。





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