瞬が弱気になったのを見てとった氷河が、我が意を得たりとばかりに北叟笑む。
氷河のその態度は少し癪だったのだが、その気になってしまった氷河に逆らうことは必ず徒労に終わるということを、瞬はこれまでの経験から嫌になるほど知っていた。

氷河の手が瞬の首筋を辿り、瞬が身に着けている長衣を少しずつ引き剥いでいく。
徐々に露わになっていく瞬の肌を氷河の唇が追いかけ、その感触と温かさは、瞬に固く目を閉じさせた。
それだけのことで、瞬の身体の奥には、熱い熱の塊りのようなものが生じてくる。
いつものことだった。

「ん……」
その、いつもの通りの我が身の反応が、瞬は不思議でならなかったのである。
「どうして氷河だとこうなるの……」
氷河の首に腕を絡めながら、そう呟いてしまったのがまずかった。

「それはどういう意味だ?」
氷河は、瞬の呟きを聞き漏らさなかった。
眉を吊りあげた氷河に問い詰められ、結局、瞬はハーデスにされたことをすべて白状させられてしまったのである。

途端に、氷河の愛撫は乱暴かつ執拗になった。
どれほどきつく問い質されても言わないでいた方がよかったと後悔はしたが、憤りと嫉妬混じりの氷河の愛撫は、今の瞬には心地良いだけだった。

自分の手は気持ち悪いだけだったというのに、肌に馴染んだ氷河の手や指の感触や体温は、瞬自身を煽り、そして変えていく。
瞬の手にはできなかったことを、氷河の手は難無くやりとげ、そのことで氷河は少し気が済んだらしかった。

「もっといいことをしてやる。おまえは本当はこっちの方が好きだろう?」
自分たちの置かれている状況がわかっているとは思えないようなことを恥ずかしげもなく言うと、氷河は、その指を瞬の中に侵入させてきた。
その感触に、瞬の全身がぞくりと震える。

瞬はなぜか、初めて氷河にそうされた時のことを思い出した。
そして、もしかしたらこれこそが、本来なら『気持ち悪い』ことなのかもしれないと思った。
だが、氷河にそうされることで瞬の中に生まれる期待と衝動は、瞬自身にも抑えることのできないものだった。

氷河が何のためにそんなことをするのかは、今では瞬もわかっている。
氷河が、彼にとって気持ちのよいことをスムーズに行うため。
だから、それは瞬にとっても快いことなのだった。
氷河にそうされるたび、瞬は――瞬の身体より心は――落ち着きを失い、期待と僅かばかりの怖れとで ぞくぞくした。
瞬の中で器用に動き、瞬を刺激するものが、やがてもっと不器用で力のみなぎったものに変わる時のことを思うだけで、瞬の身体の熱は増していく。

もう誰が見ていようと構わない。
瞬が欲しいものは、ただひとつだった。
自分の中で氷河が快さを感じ、そのために自分も嬉しくなること。
他には何もいらないし、また、他には何も必要ではなかった。

氷河がそれをしやすいように少し身じろいで、脚を開く。
「相変わらず、せっかちだな」
からかうように瞬の内腿に唇を押しつけてくる氷河に、瞬は喘ぎながら訴えた。
「ひょう……が、意地悪やめて」
「その意地悪が好きなんだろう?」
言うなり、氷河が体勢を変えて、瞬の中に入り込んでくる。

「ああっ!」
この痛みと歓喜を、氷河以外の誰かが――それがたとえ神でも――与えてくれるはずがない。
確信に満ちて、瞬は、氷河が突き立ててくるものを締めつけ始めた。

その時、ごく僅かな時間、何ものかが氷河の中を通り過ぎていったことを、氷河ならぬ瞬には知るべくもなかった。





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