- II -






シュンの兄がローマから帰ってきたのは その2日後。
ヒョウガとシュンの噂は既に彼の耳に入っていたらしく、何も言わないうちに、シュンはヒョウガとのことで兄に釘を刺されることになった。
もちろん、
「ヒョウガと行きたいんです」
というシュンの望みは、にべもなく一蹴された。

「我が国の王子は身体が弱い。公位に就けるかどうかも怪しいし、たとえ就くことができても、跡継ぎを残さない可能性は大きい。そして、俺は敵が多く、戦好きだ。おまえがミラノ公になる可能性を小さいものだとは思うなよ」
「兄さん……」
「公位継承権を持つ者が軽率なことを考えるな。相手はレッジョ公国の王子でありながら公位継承権を持たない不遇な男だそうじゃないか。おまえをミラノ公位に就けて その力を利用し、レッジョの公位を手に入れようという野心を持っていないとは限らん」

暗に『おまえはその男に利用されているのだ』と、シュンの兄は言っていた。
恋し合う者たちには、公位継承権などというものは無用どころか邪魔でしかない権利なのだということを 彼に理解してもらうのは困難なことのようだった。
「ミラノの公位継承権など放棄します」
「放棄すると言って、放棄できるものではない。その資格がないと見なされない限り、それは一生おまえについてまわる」
「どうすれば、資格がないと認めてもらえるんですか」
「……なに?」
個人の自由意思が重視されるこの時代に、いつの時にも兄に従順だったシュンの、いつになく固い意思を感じさせる物言いに、シュンの兄は一瞬 瞳を見開いた。

シュンの質問に、シュンの兄は答えてはくれなかった。
そんな方法はないと否定することもしなかった。
シュンは、だが、おかげで、その方法があることを知ることができたのである。
重ねて尋ねたところで、兄は教えてくれそうにない。
それと悟ると、シュンはすぐに伯父であるミラノ公に教えを乞うことを思い立った。
自身の直系の者にミラノ公位を継承させることを望んでいる伯父なら、傍系の者が公位継承権を放棄するための方法を快く教えてくれるのではないかと、シュンは考えたのである。
シュンは、取るものも取りあえず、その足で王宮に向かった。






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