「まずは、精神的な病を抱えている場合だな。おまえの聡明なことは周知のことだから、これは無理だ。次に、男子として肉体に欠陥があり、跡継ぎを儲けることが難しいと考えられる場合、当人の申し出によって、公位継承権を返上することができる。これも、おまえの健康なことは皆が知っているから無理だろう」 「他には」 「もう一つだけあるんだが……」 「なんですか。僕は何をすればいいの!」 公位への野心がないせい――というわけではなかったが、シュンはミラノ公である伯父が好きだった。 シュンの兄とて伯父を嫌っているわけではなかったろうが、ミラノ公位に就きたくないわけではない兄と違って、シュンは全く屈託のない好意を、この伯父に抱いていたのである。 ミラノ公もそんな甥の気持ちを感じとれていないわけはなく――だからこそ彼は、ミラノの公位継承権を放棄する方法をシュンに教えることに躊躇を覚えたのだろう。 大国ミラノの豪奢な宮殿の主人は、気負い込んで尋ねてくる甥に、実に言いにくそうな顔をして第三の方法を語り始めた。 「男子でないことを証明すればいいんだ」 「え?」 「証人のいるところで、そなたがヒョウガ殿に犯されて見せればいい。それで、そなたは公的に男子としての権利を失うことになる」 「――!」 それまでシュンを支配していた気負いと決意が瞬時にして萎えてしまう。 伯父に教えられた継承権放棄の方法に、シュンは言葉を失った。 ヒョウガに言うことはできなかったし、それは必ずしも不快なばかりの行為でもなかったのだが、シュンはヒョウガとただ抱きしめ合うだけのことにも、いつも微かな恐れを抱いていた。 公位継承権以上に、肉体というものは人間にとって不要なものだとすら、シュンは思っていた。 心だけで抱きしめ合い慈しみ合うことができたなら どんなにいいだろうと、シュンは思っていたのである。 ヒョウガと共にいるためには、衆人環視の中で、あの残酷な見世物の当事者にならなければならない。 それは、ミラノの公位継承権を放棄することであると同時に、自尊心を捨て、羞恥心を捨て、神の祝福をも失うことである。 恋のために、ヒョウガのために、おまえはすべてを捨てることができのかと、シュンは神に問われていた。 「ヒョウガを愛してます。いつも、いつまでも一緒にいたい……」 神の代わりに伯父に答え、シュンは肩を落としてミラノ公の私室を辞去した。 |