fair is foul, and foul is fairキレイ ハ キタナイ キタナイ ハ キレイ






「聖域にいる最も気高く最も美しい者よ、人々の目に最も醜い姿に映るようになれ」

ギリシャ聖域。智恵と闘いの女神の御座所。
アテナの結界で守られた聖域にやすやすと入り込み、その呪いの言葉を吐いたのは、数多あまたいるギリシャの神々の中でオリュンポス12神にも数えられながら、あまり容姿に恵まれなかった某男神(彼の名誉のために名は伏せます)だった。

彼は、彼等の親族である神々が多くのしもべたちを従えて華々しい闘いを繰り広げることを、以前から快く思っていなかったのである。
とはいえ、彼は、闘いそのものを厭うていたのではない。
彼は、闘いをしたくても、そうする力を持たない自分自身を厭うていたのである。
そして、自分にできないことをする自らの伯父や姉妹たちを妬んでいた。

彼は、一人だった。
彼には、彼のために闘ってくれる従者も仲間も友人すらいなかった。
彼は、機動力に優れた戦車を作ることも圧倒的な破壊力を有する武器を作ることもできたが、しかし、どれほど強力な武器も、それを操る人間がいないのでは、ただの金属の塊りにすぎない。

なぜ、自分には友も仲間も忠臣もいないのか。
その理由を、彼は、彼自身の醜さにあると考えた。
自らの容姿が闘いの女神や彼の伯父たちのように恵まれていなかったから、自分には友の一人もいないのだと、彼は長い迷いの時の末に確信するに至ったのである。
そして彼は、彼自身の妬みを武器に、彼の伯父であるポセイドンやハーデスにも倒すことのできなかったアテナを倒すことを決意したのだった。

彼女からその美しさを奪い、美しさを奪うことで、彼女の聖闘士たちを彼女から離反させる。
その上で、自らのしもべを失い落胆しているアテナを倒す。
ポセイドンにもハーデスにもできなかったことを成し遂げれば、天上の神々も自分に一目置くようになるに違いない。
浅はかにもそう考えて、彼は、その呪いの言葉を吐いたのだった。


彼が呪いの言葉を吐き終えると同時に、聖域に朝の光が射し込み始める。
早朝の聖域は、未だ静寂に包まれていた。






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