「あー、いたいた。おい、おまえら、すぐ聖域に戻れ。沙織さんがお呼びだ」 瞬の混乱と氷河の困惑の間に割って入ってきたのは、彼等の仲間であるところの天馬座の聖闘士だった。 少し遅れて、紫龍も仲間たちに合流する。 「星矢! 僕、みっともないよねっ」 訳のわからない混沌よりは、つらくとも動かし難い事実の方がましである。 歯に 「へ?」 突然とんでもない剣幕の瞬にそんなことを問われた星矢が、一瞬きょとんとした顔になる。 それから、彼は、眉根を寄せて口をとがらせた。 「急になに言い出したんだよ。冗談でもそんなこと言ったら、俺が氷河に殺されるだろ。おまえ、俺を殺したいのか?」 「僕が守ってあげるから、ほんとのこと言って」 「なんだよ〜。また誰かに女顔とか言われたのかぁ? んなこと気にすんなって」 「星矢、お願いだから、ほんとのこと言ってよ……!」 仲間にすがり、ついには泣き出してしまった瞬に、星矢があっけにとられる。 瞬よりも、今この場では、星矢の当惑の方が大きかった。 「……言われてみると、何か昨日までとは感じが違うような気がするけど、どこが違うのかわかんねーし……」 問われたことに自信なそうに答えながら、星矢は彼の胸で涙に暮れ始めた瞬に──正確には、瞬と瞬がすがっている相手を睨むように見おろしている氷河の視線に──内心でびくびくしていた。 すがりついてきたのは瞬の方だと、氷河の睥睨に必死に視線で弁解する。 氷河の青い瞳が、住む人とていない北の国の冬の空のように灰色がかっていく様が、とにかく星矢は恐かった。 |