その頃には既に、人通りの多い街中で大騒ぎを起こしている瞬たちの周りには、10数人ほどの野次馬が集まってきていた。 「なんだ? 往来で夫婦喧嘩でも始まったのか? 泣いてるじゃないか。誰がダンナだい? ……って、え?」 物好きにも夫婦喧嘩の仲裁を買って出ようとした一人の中年の男が、瞬の顔を見てぎょっとしたように息を飲む。 それから彼は、引きつったような笑いを顔に貼りつけた。 「このご面相で、こんな綺麗な兄ちゃんたちを掴まえるとは、なかなかやるねぇ」 「親がものすごーい金持ちなんじゃないの?」 「ねえ、どう考えても変よねぇ」 さきほどの日本からの旅行者たちが、青銅聖闘士たちの日本語でのやりとりを聞いていたにも関わらず、未だに自分たちの使う言葉は瞬たちに通じないと思っているのか、またしても遠慮会釈のない感想を吐き出し始める。 遠慮がないだけならまだしも、その物言いには、人を貶め傷付けようとする棘が含まれていた。 「なんだ、この見苦しい女共は」 それまで彼女たちは、氷河にとって、少しうるさいハエに過ぎなかった(らしい)。 そのハエが人を刺す針を持っていることに気付いた氷河が、不機嫌そうに、その視線を、星矢たちの上から二人連れの観光客の上に移動させる。 氷河の視線が自分から逸れたことに、星矢はほっとし、瞬はほんの少し顔をあげて、氷河の視線の先を追った。 氷河が『見苦しい』と言った二人連れは、瞬の目で見ても、いわゆる“美人”に見えた──今の瞬には特に。 「わー、この人、日本語わかるみたい」 「ねえねえ、見苦しいって、私たちのこと? それって日本語間違ってるわよ。見苦しいっていうのは、そこでべそべそしてるコのことで、私たちみたいなのは美人って言うの。び・じ・ん〜」 「…………」 自分でそれを言うかと、それは氷河でなくても思っただろう。 事実、氷河だけでなく星矢や紫龍も、彼女等の自信──単なる自惚れとも言う──には呆れ返っていた。 |