自信満々の二人の言葉を聞いた氷河は、自分の目の前にあるモノの価値を見極める必要を覚えたらしい。 彼は彼女等の前で半眼になり、ほとんど見くだすような態度で、それでも5秒間以上も、自らを美人と主張する二人連れの姿を視界に映していた。 そして、その観察の結果出てきた答えは、 「醜い」 ──の一言だった。 氷河は、彼女たち以上に自信に満ちて、きっぱりと断言した。 異様に造作が整っている氷河に、無表情であっさりきっぱりそんなことを言われれば、大抵の人間は、己れの全人格を否定されたような気分になる。 氷河の性癖と価値観を熟知している星矢や紫龍でさえ、時折、氷河の無慈悲・無感動な物言いには息を飲まされることがあった。 氷河が、自分の好きな者以外の人間には全く人格を認めない男だという事実を知らない他人には、氷河の言葉は一層辛辣に聞こえるはず──だった。 「貴様等こそ、日本語を勉強し直して来い。美人というのは、美しい人と書くんだ。貴様等のように、唇を引きつらせ、濁った泥のような目をして、顔を醜く歪めている阿呆共には一生縁のない言葉だ。マクベスの三魔女だって、貴様等に比べればずっと美しいだろう」 「マ…マクベ? 何、それ」 「かてて加えて、無知」 氷河が駄目押しの一言を、吐き出すような口調で加える。 大抵の人間なら、そろそろその辺りで、氷河がどこか普通の人間でないことを悟り、不気味に思って引き下がっているはずだった。 が、遠慮も他人を思い遣ることも知らない人間は、氷河の辛辣を感じとることもできないほど、神経が鈍くできているらしい。 二人連れのうちの一人が、無謀にも氷河への反駁に出た。 「何よ、マ・クベくらい知ってるわよ! ガ○ダム・ファーストに出てたジオン軍のおじさんでしょ!」 「自分がどれほど醜いのかを自覚していないとは哀れの極みだな。おまけにガン○ムオタクか。とにかく、貴様等は醜い。事実を厳粛に受け止めろ」 日本語の通じない日本人に、氷河はそろそろ苛立ってきたらしい。 それを悟った星矢と紫龍は、ゆっくりと身構え始めた。 まるで噛み合っていない この日本語のやりとりがこれ以上続くと、苛立った氷河は彼女たちの口を凍らせるくらいの暴挙に出かねない。 アテナのお膝元で、聖闘士の暴力事件はさすがにまずいのだ。 が、幸い、氷河は暴力沙汰に及ぶことはなかった。 瞬が、それを止めてくれた。 初対面の人間に『醜い』を連呼する氷河の言葉がつらくなってきたのは、氷河に醜いと言われている当人たちよりも、瞬の方だったのだ。 「氷河、やめてっ! いいの。もうほんとのこと言っていいんだってば!」 瞬が氷河に向かって、再度悲鳴をあげる。 もともと“美しい人間”にしか興味を持っていない氷河は、瞬のその訴えであっさりと“醜い”観光客の存在を忘れてしまった。 |
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