「瞬。本当におまえ、どうしたんだ」
氷河が改めて瞬の様子がおかしいことを訝り始めた時、紫龍は、事の次第をやっと理解したところだった。
理解して、紫龍は、実に気まずそうな顔で、瞬に言った。
「あー……瞬。多分、おまえ、沙織さんに殺されるぞ」
「え?」

紫龍の言葉にきょとんとした瞬の横で、星矢が紫龍に一瞬遅れて事情を理解する。
事ここに至って、星矢もやっと、瞬の態度がおかしい訳に気付いたのだった。
「あのさぁ。アテナに大勢の聖闘士が忠誠を誓っているのは、沙織さんの見てくれがいいからだって思い込んだどっかの馬鹿な神サマがさ、呪いをかけたらしいんだ。聖域にいる最も気高く最も美しい者が、人々の目に最も醜い姿に映るようになれって」
「…………」

その馬鹿な神は、自分の呪いの成果を確かめるために、のこのことアテナ神殿にやってきて、小半時ほど前に星矢たちに捕えられた──のだそうだった。
彼の捨て鉢な自供を受けて、聖域では、彼の呪いの検分が行なわれたのだが、どういうわけか聖域にいる誰もが『アテナに変わったところはない』と証言し、呪いの効果らしきものは誰の上にも見つけられない。
結局、こういう時には、瞬以外の人間は全て へのへのもへじ に見えるらしい氷河の目で判断するのが有効なのではないかという紫龍の提案が容れられ、提案した手前、紫龍は星矢と共に仲間を捜すためにアテネの街に出てきた──のである。

もっとも、氷河の目による検分作業はもう不要だった。
星矢と紫龍には、検分の前に、全ての事情がわかってしまっていた。






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