「で、瞬の呪いを解くには……」
まだ完全には納得しきれていない星矢と、最初から納得する気のない氷河を横目に見ながら、紫龍が話題の転換を図る。

「呪いをかけられた者に真実の愛を誓う者のキス、だそうよ」
「ありがち〜」
些細なこと(?)にいつまでもこだわり続けないことが、星矢の身上である。
あまりにも陳腐な解呪の方法に、星矢は、率直な感想を披露した。
実に妥当かつ的確な感想である。

「呪いにかかったのが私でなくてよかったわ。私の呪いを解く権利を得ようと、私の聖闘士たちが争う姿は見たくないもの」
そう言って、ほほほほほ・・・・・と笑う沙織に、いい加減な相槌を打って、星矢は氷河の名を呼んだ。

「氷河、出番だぞ」
星矢に呼ばれた氷河は、アテナ神殿の玉座の間の床でふてくさっている男神をちらりと一瞥すると、突然思いがけないことを言った。
すなわち、
「あの魔女共とどっこいどっこいの不細工と思っていたが、よく見ると結構いい男じゃないか」
と。
自分に益をもたらす相手は、へのへのもへじ程度のイメージ認識能力しか有していない氷河の目にも、それなりに美化されて映るものらしい。
人間の目とは、やはりそうしたものであるらしかった。

「瞬」
氷河が瞬に近付いて、その顎を捉え、顔を上向かせる。
未だに、今朝方見た鏡の中の自分の姿の残像に囚われていた瞬は、近付いてくる氷河のアップに戸惑い、微かに横に首を振った。
「あ……あの、でも、僕、みっともな──」
「──くなんかないぞ」
瞬の訴えの後半を引き取って、氷河は瞬の唇に、自らの唇を重ねていった。

人前で堂々とそういう行為に及べることが嬉しいのか得意なのか、氷河の解呪作業は、不必要なまでに濃厚だった。
重心を見失いかけた瞬が、氷河の背に腕を回し、しがみつく。
瞬の呪いを解くための氷河のキスは、そのあまりの長さにイライラした沙織が、二人を引き離すように星矢に合図を送るまで続いたのだった。






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