「はい、鏡。どう?」 沙織に渡された手鏡に映る自分の顔を、瞬が恐る恐る覗き込む。 そこには瞬の目に見慣れた瞬の顔が映っていた。 もっとも瞬自身は、これまでも、そしてたった今も、その顔を美しいと思ったことはなかったのである。 もっと美しい顔に、瞬は毎日、自分の顔を見るよりも頻繁に長い時間接していたのだ。 「普通に戻った……」 「普通、ね」 聖域で最も気高く最も美しい者(らしい)瞬のその言葉に、沙織は肩をすくめた。 それでも、女神の立場とプライドを考慮しなければ、これで一件落着である。 「だいたい、おまえが顔の美醜を気にするなんて馬鹿げている」 瞬の頭を小突きながら氷河が口にした、彼にしては実に珍しい正論に、紫龍は同感の意を表して頷いた。 「うむ。人間の容貌の美醜の基準などというものは、時代によっても場所によっても違う。タイのパダウン族では首の長い人間が美しいとされているし、トンガでは太っている方が美人。平安時代の日本の美人の条件が下ぶくれにおちょぼ口だったことは誰もが知ることで──」 氷河の正論は、しかし、あくまでも言語学 及び論理学の上だけのものだった。 紫龍が 「俺は瞬の顔と寝るわけじゃない。問題なのは、顔より下の部分だ」 ある意味では、確かにそれも正論ではあるのかもしれない。 確信に満ちて断言してくれた氷河に、アテナとアテナの聖闘士たちは、とりあえず言葉を失い脱力することをしたのだった。 |