その妖精を人間にできるのは、俺の両の腕だけ。 俺の腕の中で、妖精の幻のように美しい瞬は、人としての輪郭と資質を取り戻す。 「氷河の目の中に僕がいるよ」 これが瞬の視覚。
「氷河は雪の匂いがする」 これが瞬の嗅覚。
「そんなに『好きだ』って繰り返さなくても聞こえてるってば」 これが瞬の聴覚。
「氷河のキスは痛い」 これが瞬の味覚で、
「氷河の身体はすぐ熱くなる……」 これが瞬の触覚。
瞬の瞳の色。
昂った時の瞬の香り。 瞬の喘ぎ。 瞬の甘い肌。 瞬の唇の温かさ。 俺もまた、俺の五感で、人としての瞬の存在を確かめる。 俺の腕の中で、動物の交わりに歓喜している瞬は妖精などではなく、肉体と五感とを備えた普通の人間だった。 少し、感覚が鋭すぎるところのある、 少し、他の人間より甘え上手な、 少し、他の人間より綺麗すぎる――ただの人間だった。 俺の腕の中では。 俺の腕の中だけで。 |