その瞬が、俺の腕の力の外で、人の輪郭を持ち始めたのは闘いのせいだった。


わずかな熱で溶けてしまう雪の結晶のようだった瞬が、

潔さという感傷だけを残して風に散る桜の花びらのようだった瞬が、

幻想の国の可憐な妖精のようだった瞬が、



絶えることなく続く闘いのせいで、
泥にまみれ、
返り血を浴び、
その涙さえ紅く染めて、
人としての輪郭を、その身に備え始める。



透き通るようだった髪も肌も瞳も、今はすっかり戦士のそれで、
その様は壮絶に美しくはあったが、
既にそこにあの妖精の面影は残っていなかった。


戦士になった瞬は、俺の腕の中でだけ、幻想の妖精の姿に戻る。


闘いが辛いと訴え、
人を傷つけるのが苦しいと嘆き、
どうしてこんなことになったのかと、俺の胸を濡らす。

この闘いが果てる時を教えてくれと、俺にすがる。


そして、打ち続く闘いのせいで研ぎ澄まされた五感を、
徐々に放棄していくのだ。







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