闘いのために麻痺した瞬の目は、もう俺の瞳に映る自分自身を見ることもできない。
俺の匂いも、俺の声も、俺のキスも、俺の愛撫すら、瞬を揺さぶることはない。


闘いに傷ついた瞬は、俺の腕の中に、妖精だった頃の自分に戻るためにやってくるのだから。



「瞬。そこにいるか?」

俺は、俺の腕の中に瞬を抱きながら、幾度も繰り返し確かめる。


「うん。いるよ」

返ってくる瞬の返事は、消えかけた木霊のように儚い。


闘うために、俺の腕の外で人としての輪郭を持った瞬。
闘い続けるためだけに、その五感を使うことを覚えた瞬。



その瞬が、俺の腕の中で、それでも何物かとして存在するために、大切に取っておいたもの。



それは、人としての肉体ではなく、動物としての五感でもない。



俺の腕の中で妖精の姿に戻る瞬は、今は、心だけの存在になって
俺と共に生きている。





Fin.





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