氷河は、瞬に事の次第の説明を求めるのは早々に諦めた。
瞬には、自分が恋人(?)以外の男に裸で抱きしめらているということへの罪悪感が全くない。
罪悪感を持ち合わせていない瞬に何を説明されたところで、それは氷河の驚愕も憤怒も混乱も鎮めてくれるものではないだろう。

で、氷河は、上機嫌の瞬をそのままにして、瞬の横で分別顔で澄ましている長髪男に向き直ったのである。

「紫龍、説明してもらおーか。なんで、俺の瞬が裸で、裸の貴様なんぞとこんなポーズで写真を撮り、それだけならまだしも、こんなに浮かれていなければならんのだ!? おまけにこ…これを全国にバラまくだと!? いったい何がどーなっているんだ! え!? 事と次第によっちゃ、貴様の命も今日限りだぞ!」

本当は事と次第がどうだろうと、今すぐ紫龍の息の根を止めてしまいたい氷河だったのだが、彼は、今瞬の目の前で殺人などという行為に及ぶわけにはいかなかった。瞬に、流血の惨事など見せることはできない。脱ぎ癖のある長髪男の殺害は、瞬のいないところでひっそりと行われなければならないのだ。

氷河の激昂に、しかし、紫龍は泰然自若。
氷河の内心に芽生えつつある殺意にも、紫龍なら当然気付いているはずなのだが、彼は慌てた様子もなく、ひたすら平然と構えている。

彼は、瞬に、慈愛に満ちた眼差しを投げ(当然、氷河への悪意から、である)にこにこ顔の瞬に確認するような口調で告げた。

「瞬が喜んでいるのは、グラード冷凍冷蔵食品工業からアイスクリーム無料券を貰ったからだろう。よかったな、瞬」

「うん! 写真のモデルさんしたくらいで、あんなにアイスクリーム券くれるなんて、あの社長さん、ほんとにいい人だよね! 氷河! 僕ね! アイスクリーム会社の社長さんに50万円分もアイスクリーム券もらったんだ! 一年くらいアイスクリーム食べ放題だよ! 氷河にもご馳走したげる。一緒にアイスクリーム食べようね!」

「…………」

屈託なく、罪もなく、邪気もなく、そして、欲もなく、そう言い切る瞬に、氷河は激しい頭痛を覚えずにはいられなかった。

どういう事情なのかは知らないが、瞬ほどの被写体を脱がしておいて、たった50万のアイスクリーム券で済ませる、そのアイスクリーム会社の社長という奴の図々しさと強欲さが、氷河には理解できなかったのである。
これではまるで、物の価値を知らない子供から、10億の価値のあるダイヤの玩具を飴玉一つで巻き上げる詐欺師と同じではないか。

が、そんなことを、自分自身の価値に全く気付いていない瞬に告げたところで問題解決にはならない。
氷河の相手(敵)は、あくまで、紫龍だった。

「なぜ、ここでアイスクリーム会社の社長が出てくる。このポスターはいったい何の目的で作られたんだ」

氷河には話がだいたい見えてきていたのだが、脱ぎ癖長髪男を良心の呵責なく殺すために、とりあえず彼は紫龍に確認を入れた。

そして、紫龍の返答は、まあ、おおよそ氷河の推察通り、だったのである。







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