そして、いつからだろうか……
目の前に血の紅い世界しか見えなくなってきたのは……

俺は当たり前のように…瞬の敵…を倒して――殺して――明け暮れる。

目の前に立つ全ての相手を赴くままに屠る。

鉄錆びた臭いが大地に染み込み、肉隗の山が敷き詰められた狂気が日常の場。
激しい闘いと死が常に隣り合わせで、寝ても覚めても次から次へと敵が現れる。

いっそのこと全ての人間を殺してしまえば、平和の世になるかもしれない。

――瞬――

報われるはずのない、ただ大切に守りたい人へのこの想いに、ただ悪戯に犠牲者が増えていく……

ふと、死した者達への思考がよぎることがある。
いっそのこと瞬を殺してしまえば、理想を抱き死んでいった全ての人間の想いが報われ、救われるかもしれない。
狂ったこの現世に、愛し合うための存在など何処にも無いのだから。


――瞬!――


恐怖、悲嘆、悲鳴、怒声――罪を犯した亡者たちがひしめき合う地獄でしかないこの世界は、瞬に相応しくない。
――こんな世界など壊して、瞬を滅ぼして、全てがキレイになればいい――。


そう……躊躇うこともない。 俺の前に立つ者全てに本能のまま拳を振り上げれば良いのだから。

いつのまに、俺の目の前に現れた瞬は、最近見ることの無くなった笑顔を湛えて、とても美しく、優しい。


そう、目の前に立つ全ての相手を赴くままに屠るだけ……。

「…ぅが……ょぅが」

自らの本能のままに振った拳は、目前の

…瞬を

……容易く打ち抜き

………彼はその勢いで空を舞い

…………やがて重力に引かれ

……………大地へと

・・・・・・吸い込まれるように

・・・・・・・討ちつけられた。



「うわぁっっ !! 」

――俺は何をした……?!

自分が仕出かしたことに本来の理性が蘇った。
その次の瞬間、何かに弾かれるように勢いよく、この狂った場所から逃げる為に、身体を翻す。








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