「答え、出た?」
「え?」
 僕が城戸邸の庭で本を読んでいたときに僕の上から声がした。
 氷河だった。
「ごめん。まだ」
「あんまり、考えてなさそうな気がするよ」
 ちょっと、図星だった。考えても答えが出ないから、何も考えたくなくなり始めていたし、そうしているうちに氷河はきっと他に素敵な女性を見つけることができると思った。
「ごめんなさい」
「隣、いい?」
 氷河は僕が頷くと隣に座った。
「瞬、もう一度してみる? 答えでるかも」
「え」
「キス」
 そういうと氷河の顔が僕に近づいてきた。僕は動くこともできずにただ黙っていた。そのまま氷河を受け入れる。
 好き。
 なのかもしれない。
 僕の中でそんな想いがあふれてきていた。
 氷河はそのまま長いキスを続けた。
「…ん…」
 苦しい。
 氷河の唇が離れる。
 僕は大きく息を吸った。
「どうだった?」
「苦しかった」
「率直な感想だな。息止めることなんかないのに」
「違うの?」
「違う」
 そういうと僕にもう一度軽い口づけをした。
「好きだよ」
 氷河は立ち上がった。
「悪かったな。読書の邪魔をして」
 氷河は僕の前から立ち去った。僕はその後姿をみつめながら、はっきりとした感情を持ち始めていた。いや、言い方が違うかもしれない。自分の気持ちにやっと気がつき始めたのかもしれない。
 氷河が好き。
 聖矢や紫龍に対して想う友情じゃない。兄さんに対する気持ちでも全然違う。もっと気持ちのそこから湧いてくる感情。それは恋愛感情。
「…氷河…」
 名前を口にしてみるとすごく愛おしさが込み上げてきた。
「どうしよう」
 本なんて読んでいる状態じゃない。途端に僕の気持ちが氷河でいっぱいになる。今まで気がつかなかった氷河に対する想いが一気にあふれてきているような感じだ。自分でこの感情をどうしていいのかわからない。どうやって氷河に伝えたらいいのか、先に告白をされているはずなのに……。ただ、返事をすればいいはずなのに、それをどうしていいのかがわからなくなってしまっていた。







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