「……ぉが。 ひょおが。 氷河!」
誰かが自分の名前を連呼している。起きなければならないことは分かっているが身体がいうことをきかなかった。
「氷河、」
―誰だったけな?―
はっきりとは思い出せぬまま、重たい腕を上げると声の主に触れた。
そのまま無造作に引き寄せる。
「ぁ、」
瞼を上げて見るとそこにはひどく当惑した瞬がいた。
氷河を心配する反面、前回のようなことをされるのではないかという恐れ、のようなもの。
はっ、として手を離すと瞬はあとずさって距離をとる。
―そんなに避けなくったていいじゃないか。―
そしてこうも思った。
―オレが一体なにをしたっていうんだ!?―
だが事実、彼はそれだけの事をしていた。 参照:北緯38℃ 東経141℃ 

それは一般的に自業自得という。

とりあへず危機的状況の回避を察知した瞬が氷河を助け起こす。
氷河が軽い立ちくらみを感じながらも辺りを見まわすとどうやら、否、どう見ても其処が地底であることがわかる。
「ほら見て、僕達あそこから落ちてきたみたいなんだ。」
瞬の指差す先から光がさしこんでくる。
「ずいぶんと落ちてきたみたいだな。」
ざっと2・30メートルといったところか。
「その割にはよく怪我しなかったな。」
常識的には考えられないこと。たとえ氷河の面の皮が人並みはずれて厚かったとしても骨の一本や十本は砕けていてもなんら不思議は無い。ましてや瞬は氷河のように頑丈な身体をもちあわせてはいない。
「氷河が僕のことを庇ってくれたからだと思うよ。」
―瞬っ!!―
この言葉に ジーーン ときた氷河は思わず手を伸ばして瞬を抱きしめようとした、が
 ―スカッ―
瞬に向かって伸ばされた腕は突如移動した目的対象を捉えることはできず、結果として空を掴んで氷河自身に返ってきた。
「ほら、あっちに進めるんだよ。 あれっ、氷河なにやってるの?」
振り向いた瞬は自分で自分を抱きしめている金髪男を見て本当に不思議そうに首をかしげた。
― ? そんなに寒いのかな?―
まさか、彼は氷点下の気温でも袖なし、綿100%のシャツ一枚で生きていける生命体である。きっと酸素さえあれば月の裏側でも生きていける。に、違いない。
「いや、なんでもない。上から出るのが無理そうなら進むしかないな。」
立ち直りの早い男である。これを美徳というかどうかはその人次第。

「ねぇ、氷河。」
「ん、なんだ?」
「ここって自然にできたものだと思う?」
彼らが今歩んでいるのは平たい地面にそれと平行な天井のある、どう見ても通路としか呼びようのないところであった。
「自然にこんなに形が揃うとは考えにくいな。」
「それにね、ほら、壁が光るんだよ。」
確かに側面からうっすらとした光が浮かんでいる。いくら氷河が夜目が利くといっても日光の差し込まない地下で迷うことなく進めるというのは不自然だ。
次に二人が思った当然の疑問。
―じゃあ、誰が一体何の為に?―
その疑問は先へ進むことによって幾分かは分かりそうだった。





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