洞窟を抜けるとそこはまばゆいばかりの光で溢れていた。
通路内のうっすらとした灯りでここまで来た二人には目が慣れるまでしばらく時間がかかったほどに。
「うわー、」
だいぶ見えるようになってきた瞬は眼前に広がる光景に思わず感嘆の声をもらした。
ちょっとした広場ほどの面積に地上まで届いているのではないかという、建物でいうと吹き抜けのような状態。広場を囲んでいるのは無骨な岩盤層ではなく水晶にも似た氷。切り立ったそれは決して完璧な面ではないが、それがまた光を無造作に屈折させ美しさを増している。
「すごいな。」
普段から氷を見慣れている筈の氷河すら魅する魔性に近いものがあった。
「僕達はここに導かれてきたみたいだ。」
めったにない地震。人工的な洞窟。それは何者かが二人をここまで誘い出すために仕掛けた巧妙な罠なのであろうか。
「ここで行き止まりのようだしな。」
氷河の言葉の通りこれ以上の先はないようだった。
「上には行けそうにないし、戻るか。」
そう言って氷河は隣の瞬の肩にさりげなく手を置くと引き返そうとした。
が、瞬は微動だにしない。
「どうかしたか?」
不審に思って聞くと瞬は、
「だ、誰かいる、、」
と、上ずった声で言い、正面の壁を指差した。
「なんだって、」
氷河の視力はいい。近視、遠視はもちろん、ましてや老眼などでは決してない。測定したことはないが両目ともに3、0は軽いだろう。
が、しかし彼には瞬の指すほうにはなにも見えなかった。
「まさか、」
と言ったところで、彼も何か居るような気がし始めていた。
見ることは出来ないが何か ある ような感じがする。
生物なのかどうかは判別できないが意志が壁を通して伝わってくる。
瞬はそれを敏感に察知していたのだ。
修行の類いはしたことがないと本人は話していた。ひょっとしたら何かの才能があるのかもしれない。
―高等魔術の発動時と少し似ているな。―
氷河自身は使えないが、師であるカミュが使うのは何度も立ち会っている。その時の場の独特な雰囲気がここにも流れていた。
―なにかが封じられているのかもな。―
ならば、むやみに刺激はしないほうがいい。
これほどまでのことをして封じているのだ。自分の手に負えるはずがない。
「瞬、行こう。ここに長く居るのは危険だ。」
そう言った途端、瞬の身体が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちてゆく。
―!?―
慌てた氷河が抱きとめるとぐったりとしていて呼吸も弱い。
その場に横たえて胸に耳を当てると心音もかすかなものになっていた。
迷うことなく氷河は瞬の服の前を開き、ベルトを緩め身体を楽にして、しかる後に人工呼吸を施し始めた。
なんだかんだいってかなりの役得には違いない。





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