―な、なにが起きているんだろう?ミロさんは出ちゃいけないって言ってたけど。あれは氷河の声だよね。―
実は瞬は昼には意識が回復していた。が、念の為と倒れた原因が判らないことからミロとカミュに寝かされていたのだ。
しかし、さすがに暇を持て余し、且つ扉の向こうで繰り広げられている熱戦が気になった瞬は起き上がり、備えられていたスリッパを履くと扉に歩み寄って行った。ほんの5cmほど開けて外の様子を伺ってみる。
「馬鹿者!まったく、瞬はまだ寝ているのだぞ。」
「ならば、寝顔だけでも見て帰るさ。」
「貴様がそれで満足するとは思えん!」
「うっ、」
図星で思わず言葉につまってしまった氷河であった。
だがしかしこんなところで引き下がるわけにはいかない。
―こうなったら強行突破しかない!―
と、氷河は密かに覚悟を決めた。一方のミロは、
―強行突破をかけてくるに違いない。―

見抜いていた。

「じゃあ、また日を改めてくる。」
と、言って氷河はミロに背を向けて引き返すふりをした。ミロが油断した隙をついて押し入る魂胆である。
「ん、そうか。」
と、ミロが緊張を解いた刹那、

―いまだっ!―
氷河はありったけの力をこめて床を蹴り、飛翔した。
それはさながら大空に舞う白鳥のごとく、だった。
「甘いっ!」
しかし次の瞬間、その動きをよんで氷河よりも早く飛んでいたミロによって氷河はブロックされ、あまつさえ振り下ろされた手刀によって一撃をくらったのである。
「うわぁっ」
バランスを崩した氷河は床に倒れ、ミロは難無く着地を決めた。
「どうした。ここまでか? このミロが居る限り部屋には何人たりとも入らせん。」
「う、うぅ…。」
まるでどこぞのスポコン漫画のワンシーンである。

「オ、オレはこんなことでは、」
と、氷河が立ち上がろうとしている横を、スタスタと通る男がいた。
氷河とミロの存在を全く無視してその男はドアに手をかけた。あまりの素早さに両者ともただ見るばかりであった。
「瞬、入るぞ。」
「あ、カミュさん。」
「瞬、起きていたのか。」

「…………。」
「……………。」

―俺達って一体………―

ミロの努力も、氷河の熱意も一瞬にして瓦解した。
地中海性気候にあるまじき寒さが二人の間をかけぬける。
―さ、寒い。―
それは冷気に強い氷河にすら寒いと感じさせるに十分であった。






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