「瞬。」
不意に名を呼ばれ、少年が振り向くと後ろの茂みが動いていた。
「氷河。」
「濡れるのは身体に良くない。風邪を引く。帰ろう。」
「そういう気分なんだ。ここがいいよ。」
「一輝がいるからだろう。でもお前はあれを一輝とは認めていないんだろう。だとすればそれは単なる石だ。」
墓石を指差すと氷河は瞬に歩み寄り、手を取った。
「冷たい。」
「氷河が温かいんだよ。」
視線すら会わせようとせず、足に動く気配は無かった。
「困ったな……」
そのまま二人は口を開くでもなく、去るでもなくただ雨だけが降りたいだけ降っていた。

「みんな、みんないなくなってしまうんだ。」
ポツリ と、瞬が言った。
「赤い紙が来る度に。」
「瞬……」
「そして二度と帰ってこない。」
氷河はただ聞いているだけだった。
「皆、僕を残して行ってしまう。父さんも、兄さんも、氷河、君もだ……」
「オレは死なない。必ずお前のところに戻ってくる。」
「兄さんもそう言ってた。でも……」
瞬は石を見つめた。

いたたまれない気持ちになった氷河は思わず瞬を後ろから抱きすくめた。
瞬が、そのまま地に吸い込まれてゆく雨のように思えて不安になった。そんなことあるわけないのに。
濡れて垂れ下がった前髪で顔は見えないが恐らく泣いているのだろう。密着した身体から小刻みに震えているのが伝わってきていた。

「・・・・」

次に瞬が言った言葉は急に激しくなった雨音に邪魔されて聴き取ることが出来なかった。
しかし氷河は頷くと手を握り締めて言った。
「戻るぞ。」
氷河が歩き出すとそれに引かれて瞬もその場を動いた。






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