「ほら、」
氷河の家に着いた後、差し出されたタオルを瞬は無言で受取った。が、手が動くことは無かった。
氷河は自らの髪を拭いていた手を止めて瞬の手からタオルを取り上げて額を拭った。顔を隠していた前髪が流れて目が現れた。
「泣くな。とは言わん。」
「な、泣いてなんか、これは雨に濡れたから…」
「そうか。」
言葉に詰まった瞬にそれだけ言うと氷河はそのまま機械的に作業を続けた。

「戦争なんかしなけりゃいいのに…」
「そうだな、」
「そうしたら兄さんもずっと一緒にいられたのに…」
「ああ、」
「君も行かなくてもいいのに……」
「そうだ、」
何を言っても肯定しかしない氷河に瞬は苛立ちを覚えた。

「なんか言って!」
「言っているぞ。」
「違うの、」
「なにがだ?」
「もっと、もっと何か、叱ってもいいの。我侭言うな!とか、いい加減にしろ!とか、どうしていいのかわからないからっ、だから……」
感情を爆発させた瞬は座っている氷河の胸倉を掴むとそのまま泣き出してしまった。
「……」
「近くにいさせて欲しい……失いたくない、これ以上…」
「分かった……」
そうとだけ呟くと氷河は少し首を動かした。
ほんの数センチの距離なのにそれだけで唇が触れ合った。

―!!!―
瞬が掴んでいた手を放して飛び去ろうとする。
それを阻むと耳元に口を持っていき囁いた。

「いいか?」
「……。」
氷河は瞬の首が縦に動くのを確認するとそのまま床に引き倒した。






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