「仕方ないな…」
ここまできて黙って聞いているだけであったカミュが口を開きました。なにか名案でもあるのでしょうか。
そして何事かと構えているアイザック、そして氷河の前を素通りすると瞬の正面に立ち、
「では、頼むぞ…」
とだけ言いました。
「え?」
そして氷河に向かい、
「そういう訳だ。三蔵紫龍が見つかるまでこの少年の供をして天竺を目指せ。」
と言ったのです。
かねてから、瞬が三蔵でなくともどこまでも付いて行ったであろう氷河は心の中で
―ナァイス 我が師!!―
と、叫び、賢明(と、しておこう)なるカミュの英断に深く感銘を覚えたのでした。

「アイザック、」
続いてカミュは傍らにいたアイザックに声をかけました。
「はい、なんでしょうか?」
「お前もついていってやれ。」
「な、なに!!」
―いらんいらん!!―と思ったのは氷河。
実は先程から瞬に話しかける彼を正直疎ましく思い、できれば早急に天界に帰って欲しいと願っていたのです。が、
一方、当のアイザックはというと
―師がこれほどまで言うのだ。きっとオレなどには計り知れないような深い理由があるに違いない!!―
そして考え抜いた果てのアイザックの返答は、
「わかりました。師がそこまで言うのならばこのアイザック命にかけて天竺を目指します!!」
「頼んだぞ。」

事態をまだ飲み込めていない三蔵瞬、絶望の淵に叩き落された悟空氷河、大任を引き受けて気分が高揚している白馬アイザック、の三人を眺めて己のしでかしたことに満足したカミュは、
「では、さらばだ…」
と、だけ言うと、来たときと同じように速やかに上昇を開始し、意気揚揚と天界へと帰っていったのでした。

が、
しかし、そう思われたのもつかの間、空のど真ん中で、
「あ…」
カミュは珍しく声をあげました。一体何があったというのでしょうか?
―言い忘れたことがあった…―

―・・ ・・ ・・ ―

無言のまま時間だけが無情にも経過してゆきます。戻って伝えるべきか否か。
そして彼の出した結論は、
「まあ、別にいいか…」

この時のカミュの判断が後に重大な事態を引き起こすことになることをまだ誰も知らなかった…
瞬と氷河。及びアイザックの旅は始まったばかりです。