『僕は恋愛ってまだよくわからないなあ』
何故そのような話になったのかは思い出せない。テレビのドラマでも見たあとだったのかも知れない。
『おかしいかな。もう子供じゃないのにね』
瞬はミルクを入れた紅茶を花模様の七宝焼きのスプーンでかき混ぜていた。
『別におかしくないだろう?』
『そう?』
氷河を見上げて瞬が笑う。
『氷河はどうなの?』
『俺?』
氷河が苦笑して答える。
『俺の方こそ知るわけないだろう。大体まわりに対象になる存在が少なすぎる。何処をむいても男ばかりだからな』
『それはそうだよねえ。だから僕も全然わからないなぁ。…でも』
『でも?』
『もしかしたら、僕は誰かを好きだと思ったら何処までも求めて止まらないのかも知れない。自分と相手を分離できずに死んでしまうかも知れない。だからちょっと怖いかな』
氷河はその言葉に驚いてまじまじと瞬を見つめた。
『…それはすごいな』
『え、そう?』
『驚いた』
氷河がまともに驚いた顔を見せるので、瞬が今度は戸惑ってしまった。
『…そうかぁ…驚かれちゃうようなことなんだ』
『…いや、そんなことなく、ただ俺が全然知らないだけかも知れないし…』
『うーん。でもね、きっと好きになるってそういうことかなって思うんだ。その人のために死んでもいい、って。そこまで思ってしまうような…』
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