たった1匹、 ひょうがねこに 見向きもしない、 白い かわいい ねこが いました。 しゅんねこ という なまえの ねこでした。 しゅんねこは いつも なにやら いそがしそうにしていて、 ひょうがねこが そこにいることにすら きづいていないようでした。 ひょうがねこは、 しゅんねこの そばに行って、 「おれは 100万回も 死んだんだぜ!」 と言いました。 しゅんねこは そばで 泣いている こねこの せわに むちゅうで、 ひょうがねこの 声も きこえていないようでした。 ひょうがねこは すこし はらをたてました。 なにしろ、 ひとに 無視されることに なれていませんでしたからね。 つぎの日も つぎの日も ひょうがねこは しゅんねこの ところへ 行って、 言いました。 「おれは もう 100万回も 生きているんだぞ。 おまえは まだ 1回も 生きおわってないんだろ」 めずらしく しゅんねこの そばに だれもいない ある日、 ひょうがねこの 声は やっと しゅんねこに とどいたようでした。 しゅんねこは ひとみを きらきらさせて、 言いました。 「すごいね。 じゃあ きっと 100万回も いいことを してきたんだね。 100万人のひとを しあわせに してあげたんでしょう?」 「…………」 「聞かせて。 ひょうがねこは どんなふうに みんなを しあわせに してあげたの」 「おれは だれも しあわせに しなかった。 100万回も 生きたのに」 ひょうがねこが そう言うと、 しゅんねこは ぽろぽろ きれいな なみだを こぼしました。 「かわいそうな ひょうがねこ。 100万回も かなしかったの?」 「おれは……」 ひょうがねこは それまで そんなふうに かんがえたことが ありませんでした。 「おれは かわいそうな ねこなのか」 しゅんねこは、くらい顔になった ひょうがねこの そばにきて、 まぶたを ぺろりと なめました。 「でも、ひょうがねこは 生きてるんだから、 きっと これから みんなを たくさん しあわせにしてあげられるよ」 「おれは おまえを しあわせにしてやりたい」 しゅんねこは びっくりして なみだでいっぱいの ひとみを みひらきました。 そして、 うれしそうに 言いました。 「ありがとう。 ひょうがねこ」 ひょうがねこは ずっと しゅんねこの そばに いました。 |