「僕の身体……悪いことに使うんじゃないね?」
『せぬ。私は嘘はつけぬ』

“彼”の言葉は真実だと、瞬の直感は告げていた。

「あなたに身体を差し出したら、僕の心はどこに行くの。消えてしまうの」
『生きている心身は切り離せるものではない。そなたの心は、私と共に、その身の中に存在し続ける。身体を支配するのが私の意思の方だというだけのことだ』

「…………」
完全に消滅してまう方が楽なのではないかという気もしないではない。
だが、瞬は、氷河がこの先をどう生きていくのかを見極めたかった。

心は消えない――“彼”のその言葉が、瞬に決意させた。
「いいよ。僕の身体、あなたにあげる。だから、氷河の命を助けて」

わかっていたのだろう答えに、“彼”は念を押してくる。
『そんなに簡単に決めてよいのか』
「僕は氷河を――友の命を救いたい」

『友か……。そう、ただの友のようだな』
意味ありげに、“彼”は言葉を弄んだ。

『人間というものは、そんなもののために我が身を捨てる。これまでにも幾人かいた。我が子の命を救うために、その身を私に差し出した母親たちが』

“彼”の言葉は、瞬の心を誘うように慰撫する。

「氷河のマーマみたい」
瞬は、我知らず、うっとりと呟いていた。

「命を賭して誰かに愛される人には、それだけの価値があるんだろうね。だから……氷河を助けてください」

瞬は、再度、自らの決意を“彼”に告げた。





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