III






氷河は、彼が抱きしめている身体の中に、僕の心があると思っている。


神を名乗った“彼”は、それが僕の仕業とは思えないほど露骨に氷河を誘ってみせた。
そして、“彼”は、僕の身体が意思ではなく感覚に支配され始めると、なぜか僕の心を解放する。


氷河は不思議に思わないんだろうか。
あんな、大胆というよりは端的に過ぎる言葉で誘っておいて、彼をその身に迎え入れた途端、羞恥心を露わにし、泣き出してしまう僕を。


――不思議には思っていないようだった。
氷河は、それを、当然のことのように受けとめている。
その変化を、氷河は、僕が本来の僕に戻っているだけのことなのだと考えているのかもしれなかった。
命の限界を知って人の変わった僕が、氷河に抱きしめられて、元の僕に戻っていく――のだと。

事実、その通りなのだけれど。





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