長い時間の果てに、瞬の許にも、ついに闘いの終わる日が来た。

いつかは訪れるだろうと覚悟していた、その日。
その時にこそ、真の心の安寧が得られるに違いないと信じていた、その時。

考えていたより、早い訪れのような気がした。
望んでいたより、遅い訪れのような気もした。


(僕は死ぬんだ。僕の闘いの日々は、やっと終わる――)


瞬は目を閉じた。
肩に、これから瞬が同化していくことになる土の感触がある。
今頃、氷河も、どこか別の場所で感じているはずの感触。


結局、瞬は、氷河以上に“特別な人”には出会えなかった。
長い――本当に長い時間を生きてきたというのに。

ずっと、氷河の視線に怯えながら、
その視線を苦しく思いながら、
どんなに長い時間が過ぎても、氷河の視線が自分に向いていることに安心しながら、
瞬は、その時間を過ごしてきた。


『瞬、俺はおまえが好きなんだ』


(あの時、『僕にも氷河は特別だよ』って答えていたなら、僕の人生は何か変わっていたんだろうか……?)


文字通り、闘いの日々――闘いだけの日々――だった。
地上の平和と安寧のため、信じるもののため、そして、自分自身のため闘い続けてきた。
そのことに後悔はない。
後悔はなかったのだが。


『瞬、俺はおまえが──』

あの言葉を受け入れるか、受け入れないか。
そんな些細なことで、何かが大きく変わっていたような気がしてならなかったのである。今、この時に、瞬は。


溜め息ひとつつくのに、かなりの力が要った。
地に倒れた身体はもう、ほんの1ミリたりとも、自力では動かすことができない。
瞬の上にある空の色は、青いはずだった。

今頃、氷河も、どこか別の場所で感じているはずの空だった。





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