約束の夜。
ヒョウガは、消し去れない不安を胸に、それでも、神の山に向かいました。

そして、ヒョウガは、水晶の花の咲く庭を目指して険しい山道を進んでいる途中で、一人の旅人に会ったのです。

小さな男の子を胸に抱きしめた、疲れきった様子の父親。
彼がその胸に抱いている男の子は、今にも命の炎が消えてしまいそうなほど弱りきっていました。


「神の庭に咲く水晶の花が願いを叶えてくれると聞いて、この山にやってきたんです」 
旅人は、ヒョウガにそう言いました。
「まもなく、私の息子は命が尽きます。けれど、水晶の花の力があれば、息子は生きながらえることができるでしょう」

「水晶の花の庭はこの上にある。一緒に行くか?」
神の山で初めて出会う人間を怪訝に思いながらも、ヒョウガは彼に尋ねました。
旅の父親は、ヒョウガの同道の申し出に頷きました。

「実は、私の分の花は、去年、上の娘のために使ってしまったんです。私は、自分の花を私に譲ってくれる人を、ここで待っていました。あなたの花の権利を、私に譲ってくれないでしょうか」
疲れ果てた父親は、すがるような目をして、ヒョウガに言いました。

「親切な方。あなたの水晶の花は、またいつか咲かせられるでしょう。あなたはまだ若く、あなたにはまだ長い時間が残っている。けれど、私の息子は、その時間を奪われかけているのです」





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