『そうか……。あの時、俺は、おまえが俺を信じてくれていることを信じていればよかったのか――』

ヒョウガが、氷河の声を借りて呟く。

『どちらを選ぼうと同じだったんだな。おまえが信じていたのは、俺がおまえを救うことじゃなく、俺がおまえを救うために力を尽くすことだったんだから』

完璧な“善”など、人間には為し得ないものなのかもしれない。
だが、だからと言って、人が人を思い遣る心に価値がないということではないのだろう。

人は、人の愚かさを許すことのできる優しさというものを――愛というものを――持っているのだ。

『選び間違えた俺を責めていたんじゃなかったのか、あの目は。許してくれていたのか、おまえは』

『許してたんじゃないよ。許されなきゃならないようなことを、ヒョウガは最初からしてなかったんだもの』


数百年振りの聖夜。
シュンは、微かに首を傾けて、幸福そのものの眼差しをヒョウガに向けた。





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