翌日、瞬は、氷河に呼ばれて、彼の私室に赴いた。

そして、瞬は、そこで、実に奇妙なものを見てしまったのである。

瞬は、ぎょっとして、扉の前に立ち尽くした。
氷河はそこで、実に妙ちくりんな――踊りらしきものを踊っていた。


「ああ、驚かせたか? これは我が一族に伝わる求愛の舞だ。おまえに踊ってみせようと思ったんだ」

「…………」
望む通りにならない現実と自分自身への憤りからの無言ではなく――氷河の言う"求愛の舞"とやらの奇天烈さに、瞬は絶句していた。

「我が家に伝わる一子相伝の秘密の舞だぞ。生涯でただ一人の人にだけ捧げるものなんだ」

あっけにとられている瞬の目の前で、氷河は至って真顔で――というより、彼は真剣そのものだった。
深く思い詰めているようにさえ見えた。


「おまえのために踊るぞ」
そう告げた氷河が、彼の一族の秘伝なる求愛の舞を、実に真面目な顔をして踊り始める。

「あ……」

この大陸のほとんどを掌握する帝王が、ただ一人の人のために真剣に踊る求愛の舞は、実に実に感動的で、戦慄するほどに──滑稽だった。
まるで、不恰好なアヒルが白鳥の真似をして飛び立とうとして、地べたを跳ねまわっているかのように見えた。

その真剣なアヒルのダンスを通しで見せられてしまった瞬は、たまったものではない。

耐えかねて――どうしても、深刻な面持ちを保ち続けることができずに、瞬は、ついに笑ってしまったのである。

それも、可憐な微笑、艶然たる嬌笑などというものではない。
文字通りの大爆笑、だった。





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