「助けて……」 氷河は、瞬の服の袖に両手でしがみついていた。 本当は、ずっと前から――瞬に会ったときから――否、瞬に出会う前から、そうしたかったのだ。 氷河は、誰かに頼りたかった。 誰かを信じて、すがりたかった。 だが、それをするためには、まず、自分の非力を認めなければならない。 そうした時に、再び一人で立ち上がる力を自分が有しているのかどうかが、氷河にはわからなかった。 だから、氷河は、肩肘を張り続けるしかなかったのだ。 「助けて……マーマを助けて! マーマが死んじゃう。マーマがいなくなったら、僕はひとりぼっちになる。僕はひとりになるのは嫌だ……!」 『俺』が『僕』になってしまった氷河を、瞬が強く抱きしめる。 瞬は、そして、苦しそうに押し殺した声で、氷河に告げた。 「僕は、君のマーマを知らない。だから助けてはあげられない。君のマーマは、僕には見知らぬ人でしかないから」 それは、やはり、誰にもどうすることもできない残酷な未来なのだろう。 氷河を力付け支えることができる瞬にも、氷河の母を助けることはできないのだ。 「でも、僕は、君をこうして抱きしめてあげられる。君を力付けるためになら、僕は、できるだけのことをするよ。ごめんね。僕にはそれくらいのことしかできない」 「助けられないのか、瞬にも !? 瞬にもマーマを助けることはできないのか !?」 「うん。ごめんね」 瞬が、辛そうにそう言って、小さく頷く。 母を助けることは、瞬にもできない。 では、もはや、誰にも、あの不幸な女性を救うことはできないのだ。 「ふぇ……」 全ての希望が断たれたことを知った氷河の喉から、まるで幼児のそれのような嗚咽が洩れてくる。 次の瞬間、氷河は、瞬にしがみつき、大声をあげて泣き出していた。 では、この魔法は、いったい何のために行われたものなのだろう。 この不思議は、母の命を救うために起こった奇跡ではなかったというのだろうか。 氷河を、この不思議の中に投じたのは、いったい誰だったというのだ――。 意味のない奇跡、 何の力も持たない無力な自分自身、 失われる母の命、 避けられない孤独――。 氷河にはもう、泣くこと以外にできることは何もなかった。 |