「だから、子供に焼きもち焼くのはやめてって言ってるで……」 次に氷河が目覚めた時、彼の横に瞬の姿はなかった。 ベッドの横で、無礼な男が瞬を抱きしめ、キスをしていた。 「――瞬」 覚醒しきっていない声で、氷河が瞬の名を口にすると、瞬は、ぱっと弾かれたように氷河の側から離れてみせた。 無礼な男が一方的に瞬を抱きしめていたのではないことが、氷河にはわかった。 「あ……お……おはよう。えーと……あ……あのね……」 瞬が、その場を取り繕うようにして、ぎこちない笑みを作る。 それから、瞬は、部屋に備え付けの棚の上から小さな箱を取ってくると、綺麗にラッピングされたそれを、ベッドに上体を起こした氷河の手に握らせてきた。 「今日はね、好きな人にチョコあげる日なんだよ。はい、これ、クマさんのチョコ。氷河とお揃いだよ」 「…………」 少し慌てたような瞬の笑顔と、無礼な男へのそれと同じものだというチョコレート。 その二つを交互に見詰めているうちに、氷河はなぜか、また泣きたくなってきてしまったのだった。 |