衝撃の事実を聞かされて、返す言葉もなく呆然とするアテナの聖闘士たち。 そして、次に、彼等は、瞬が女だという事実を、沙織がさほど重要視していないことを知ることになった。 「まあ、心身のことは、瞬に決めてもらうとして、問題は、聖闘士としての瞬の立場なの」 「せ……聖闘士に男も女もないでしょう」 その場に居合わせたアテナの聖闘士たちの中で、最も衝撃――否、打撃――が小さかったのは、紫龍だったらしい。 自然、沙織とのやりとりは、彼が担当することになった。 「大ありよ。女性の聖闘士はね、素顔を見られた相手を愛するか殺すしかないのよ」 「は……? あ……ああ、そういえば……」 そういえば、そんなことを言って、星矢を殺しに来た傍迷惑な女聖闘士がいたことを、紫龍は思い出した。 「馬鹿げた慣習だとは思うけど、実際に今だって仮面をつけている女性の聖闘士がいるわけで、その慣習に例外を認めることは、彼女たちのこれまでの時間を否定することになると思うの」 「し……しかし、その理屈では――。これまで、瞬の素顔を見た人間はいくらでもいる。聖闘士のことだから聖闘士内に限ったとしても……」 「俺たちはもちろん、黄金聖闘士に白銀聖闘士、ほとんどの聖闘士が瞬の素顔を見てるよなー」 紫龍の次に打撃が少なかったのは、星矢らしい。 「てことはさ。瞬は、誰か一人恋人を選んで、それ以外の聖闘士たちを皆殺しにしなきゃならなくなるじゃないか。いや、瞬が誰も好きになれなかったら、聖闘士皆殺し――」 言葉にしてしまってから、星矢は、自分が口にしたその言葉にぞっとした。 「そうね」 沙織が、あっさりと頷く。 「そうね……って、沙織さん! これがそこいらの弱っちい聖闘士ならまだしも、相手は瞬ですよ! 瞬なら、大抵の聖闘士を殺せる。そんなことになったら、聖域から聖闘士が一掃されることになるじゃないですか!」 「あ、そうはならないと思うわ。少なくとも、実の兄である一輝は生き残れるでしょ」 さすがは、戦いの女神。 沙織はあくまでも冷静である。 「…………」 だが、生存を確約された当の一輝は、その確約を素直に喜べる状態ではないらしかった。 それはそうだろう。 「このことは、瞬には、あとで私から知らせます。あなた方に知らせたのは、そういうわけだから、普段から瞬の身体を気遣ってほしいと思ってのことよ」 自分を殺しに来るかもしれない相手の身体を気遣えと、沙織はどういう神経で言っているのだろう。 「それから……覚悟を決めてもらうため」 アテナが、趣味の悪い笑みを浮かべる。 神とは、基本的に冷酷非情な存在であるらしかった。 |