その日の夕刻、城戸邸に、世界各国から山のような宅配便が届いた。
黄金聖闘士たちを筆頭に――要するに、それらは全て、瞬へのプレゼントだった。

「何だ、これは」

送付状の送り主欄を確認しながら呟いた紫龍に、沙織が訳知り顔で頷く。
「まあ、聖闘士全員が、瞬と闘うくらいなら、瞬の愛情を勝ち取った方がいいに決まってるって判断したということね」

「黄金聖闘士たちに教えたんですかっ !? 」
「だって、どうして瞬に殺されるのかもわからないまま死ぬなんて、気の毒じゃない」
冷酷非情な戦いの女神は、一応、親切心というものも持ち合わせてはいるらしい。
城戸邸に起居する青銅聖闘士たちには、それは大きなお世話でしかなかったが。

いずれにしても、それらの荷物は、沙織の言葉通りの目的で送りつけられてきたものらしかった。
送り主たちの中に無い名前はアイオロスのみ、である。

「ろ……老師まで……」
「魔鈴さんが女でよかったぜ……」
無論、その中には、氷河の師からのものもあった。

星矢たちは、だが、当然、そのプレゼントを瞬に渡そうなどとは考えもしなかった。
瞬が甘党なのは周知の事実なのか、送られてきたものは、ほとんどが日持ちのする洋菓子の類で、それらは星矢たちのお茶請けになることになったのである。


「でも、瞬が女の子かー。してみると、可愛いよな。瞬なら、威張り散らさないし、気が利くし、優しいし、世話好きだし、一緒に闘えるし、聖闘士のパートナーには最高かもな」
カミュから送られてきた極上のフランス菓子を頬張りつつ、星矢が言う。

「星矢……おまえには、他にいくらでも……。沙織さんは別格としても、美穂ちゃんやらシャイナやら──」
「あー? 何か言ったかー?」
「いや、別に……」

星矢にそんなことを言っても無駄だということを、紫龍は早々に悟った。
星矢には、色恋の本質など、まるでわかっていないのだ。
そして、その星矢にとって、一緒にいていちばん楽しい“女の子”は瞬である(かもしれない)――ということなのだろう。
もしかしたら、それこそが、恋の本質なのかもしれなかったが。

「紫龍だって、いいと思うだろ? 俺たちが闘ってる間、待たせたり泣かせたりしなくて済むし、後顧の憂いなく一緒に闘えて、守ってやれるし、守ってもらえるし、さ」
「む……」

聖闘士というものは、基本的に、いわゆる“普通の幸せ”に縁がないようにできている。
確かに、星矢の言う通り、パートナーが聖闘士なら、そんなことで思い煩うことなく、闘いに赴くことができるのだ。


「氷河、おまえだってさ──」
口いっぱいにダックワーズを頬張った星矢が水を向けた先では、氷河が深刻そうな顔をして、椅子に身体を沈み込ませていた。

「ありゃりゃりゃりゃ……、よっぽどショックだったんだなー」
「まあ、氷河の場合は、我々とはまた立場が違うからな。男でもいいと思おうとしていたところだったんじゃないのか?」

「ま、何にしても、俺たちは黄金聖闘士や白銀聖闘士たちより有利な立場にいるよな。瞬をあいつらに渡すわけにはいかないぜ! みんな、張り切ってこー!」
ダックワーズをごくりと喉の奥に押しやって、星矢が鬨の声をあげる。

「張り切れるものなら、張り切ってみろ、星矢」
だが、それは、呪いの呪文にも似た瞬の兄の声によって遮られた。
究極に能天気な星矢も、さすがにぎくりと顔を強張らせる。


「瞬の唯一の欠点は、鬼より質の悪い小姑が一人ついていることだな……」
紫龍が、鬼どころではなく閻魔大王並みの形相をした一輝の顔を見て、なぜか憂い顔になる。
実は紫龍も、まるでその気がないわけではないらしかった。





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