さすがに、黄金聖闘士たちの正装には一分の隙もなかった。 中には、格好だけが教科書通りで品格に欠ける者や、どう見ても仮装にしか見えない者もいるにはいたが、基本的に黄金聖闘士たちの中には体格の劣る者はいない。 タキシードは肩と胸で着るもの、黄金聖闘士たちは、その点(外見)だけは見事だった。 「壮観! 華やかでいいわね〜。これでこそ、アテナをやってる甲斐があるというものだわ!」 いつもよりフリルが2段多いドレスに身を包んだ沙織は、一堂に会した彼女の聖闘士たちに至極ご満悦だった。 ブラックタイとブラックタイガーの違いもわからない星矢は、沙織が準備してくれたタキシードを着込み、初めての蝶タイを邪魔そうにしていたが、一輝や紫龍は礼服を卒なく着こなしている。 やはり、タキシードは体格と姿勢が物を言う代物だった。 このパーティの主役である瞬は、さすがにドレスではなく、オフホワイトのタキシードを着せられていた。 「黄金聖闘士さんたちって、みんな肩幅あるから、こういうカッコ、映えるんだね。僕ももう少しがっちりしてたら良かったのに。これじゃ七五三の写真撮影みたい……」 と、当たり障りのない(?)ことを言っている瞬は、どことなく元気がない。 沙織は、このパーティが瞬のお相手物色のための催しだとは告げていないらしく、瞬は、この集まりを聖闘士たちの慰安会のようなものと思っているようだった。 「殺すの愛さないのと、馬鹿げたことを言っているようだが、この俺が青銅聖闘士ごときに負けるわけがないんだ! 上等の毛ガニが出ると聞いたから来ただけで、俺はあんなガキなんかどーでも……」 「こんにちは」 何はともあれ、世界各国から集まってくれた先輩たちへの挨拶は、彼等を迎える側の礼儀だと思っている瞬が、パーティホールの一画を占めている黄金聖闘士たちの輪の中に入っていく。 パーティの目的を知らされていなくても、実際、青銅聖闘士たちの中でまともにホスト役をこなすことができるのは瞬くらいのものだったろう。 瞬は、それを、自分の義務だと思い込んでいる節があった。 彼の名誉のために名指しは控えるが、おそらく黄金聖闘士たちの中で最も品格に欠けている男が、瞬の礼儀正しい挨拶を受けて、少しばかりたじろぐ。 「俺が、こんなガキに負けるはずが……」 「わざわざ遠いところから」 「俺はグラマーな美人が」 「お越しいただいて」 「胸のない女になぞ、興味は――」 「ありがとうございます」 「む……」 瞬にぺこりと頭を下げられて、彼はそれ以上毒づくのをやめてしまった。 「どうしたんです」 「あれを泣かせるのは楽しそうだ」 悪党仲間に尋ねられた品格に欠ける男が、品性のかけらもなく答える。 「んふ。そういうことは、美しい私がした方が絵になります」 「貴様は、一度、アンドロメダに負けているからな。もう一度あれと闘うよりはと、必死なわけだ」 「なんだとっ !? 」 あくまで名指しは避けるが、どうやら、品格と美しさは別物であるらしい。 かつ、悪党仲間は、仲間割れも早いようだった。 「みっともない真似はやめたらどうです。私は最初から、無意味な闘いをするつもりはありませんよ。なにしろ聖衣の修復ができるのは、私ひとりなんですし、たとえ私を選ばなかったとしても、アンドロメダが私を殺すようなことは──」 「お久し振りです。その節はお世話になりました」 「…………」 女の子だと思って見ると、瞬は、質が悪いほどに可愛らしい。 ファンが恐いので名指しは避けるが、聖衣修繕屋の某黄金聖闘士は、瞬の様子を見て、らしくもなく世間並みの幸せについて考え始めたようだった。 「思えば私もずっと女っ気なしでしたからね。そろそろマトモな人生を……」 以下、順不動・敬称略・匿名にて、黄金聖闘士たちの見解である。 「あの細腕の訳はそういうことだったのだな。ムサい兄が付いているのが難点だが、仏陀も苦行・禁欲に意味はないと説いている」 「俺は、最初から可愛い子だと思っていたぞ!」 「少なくとも、氷河よりは私の方が可愛がってやれる」 「私とアンドロメダのことは、もはや氷瞬界の常識。アンドロメダをお姫様抱っこしてウェディングベルを鳴らすのは、この私だ」 「アテナへの忠誠第一のこの私、アテナのために共に闘える伴侶が得られるのなら、独身主義を貫く必要もない」 「せっかく若返ったことだし、『春よ、もう一度』じゃ」 「権力、財力、年の功。全てを備えている私こそが、アンドロメダの相手に最もふさわしいに決まっている」 「いや、結婚生活というのは、おまえたちのような突飛な外見や性格をした者たちがするものではなく、俺のような好青年がするものなんだ」 ――等々。 「きーさーまーらーっっっ !!!! 」 楽しそうに浮かれている黄金聖闘士たちのたわ言を、瞬の兄はそれ以上聞いていられなかったらしい。 一輝が蝶タイをかなぐり捨てて黄金聖闘士たちの群れの中に乱入していき、瞬のお相手物色パーティは、否が応でも盛り上がりまくることになったのである。 |