「あーらら。自分ひとり蚊帳の外だもんで、一輝の奴、荒れてやがる」 「弟ならともかく、妹ではな……。下手に子供ができると問題ありだ。やはり、異性間の近親相姦はマズかろう」 「だな」 「そういえば、もう一人の男はどうしたんだ」 「氷河か? そういえば、まだ姿が見えないな。一輝以上に騒ぎたてるもんだとばかり思ってたのに」 「複雑な気分なんじゃないか? 案外、氷河は、男の瞬が好きだったのかもしれない」 「あ、そうかもな〜」 ――等々、星矢と紫龍は、一輝と黄金聖闘士たちの乱闘を尻目に、呑気の極みである。 一方に騒ぎ立てる者がいれば、その中に入っていく気のない者たちが逆に冷静になっていくのは、“パーティ会場内エネルギー保存の法則”にのっとった、ごく自然な帰結なのだ。 そんな星矢たちから少し離れたところで、客人たちへの挨拶を済ませた瞬は、一人ぽつねんと壁際の椅子に腰掛けている。 星矢は、落胆の仲間を慰めるために、瞬の側に歩み寄っていった。 「元気出せよ、瞬。おまえが男だろうが女だろうが、俺たちの友情に変わりはないんだし、多分、氷河もそうだと思うぞ」 「え?」 「なんかよくわかんないけど、男のままでいることもできるんだろ?」 「は?」 「だからさー」 瞬は仲間の前でまでも白を切り通そうとしているのだと思った星矢は、瞬の水臭さに舌打ちをしつつ、自分たちが全てを承知していることを瞬に告げた。 すなわち、沙織から男女の別を決める5つの要因をレクチャーされたことを、瞬に説明してやったのである。 「どいて、星矢」 沙織の話を聞かされた瞬が、ふいに掛けていた椅子から立ち上がる。 瞬の小宇宙が、燃え始めていた。 「おお、アンドロメダ、ぜひ、私と次のダンスを!」 「いや、ここはこの俺と」 「こらっ、貴様、あっさりアンドロメダに負けを喫したくせに図々しいぞっ!」 一輝と黄金聖闘士たちの乱闘の間に抜け駆けを図った数人の白銀聖闘士たちを、瞬がぎろりと睨みつける。 「そこをどいてください!」 「そっ……そこの白銀聖闘士共、我が最愛の弟……違った、妹に何をするかーっっ !! 」 兄の雄叫びも、今の瞬の耳には聞こえていないようだった。 「どいてってばーっっ !! 」 瞬は、敬語を忘れていた。 自分に群がってくる白銀聖闘士たち、一輝との乱闘から抜け出してきた黄金聖闘士たち、そして、同輩である青銅聖闘士たちをも押しのけて、瞬は、つかつかと、彼等聖闘士たちを統べるアテナの許に歩み寄っていったのである。 「沙織さんっ! 何の冗談ですか、これはっ!」 「あら、もうバレたの?」 「僕が女の子だなんて、どこからそんな馬鹿げた話が出てきたんですっ!」 瞬の剣幕にも、沙織はまるでたじろがない。 さすがはアテナである。 黄金聖闘士の白銀聖闘士のと言ったところで、所詮は人間にすぎない聖闘士たちは、一時乱闘を中断し、瞬と沙織のやりとりを、固唾を飲んで見守ることになった。 「私だって、まさか、聖闘士たちがこぞって、こんな冗談を信じるなんて思ってもいなかったわよ」 「そういうことを聞いているんじゃありませんっ! なぜこんなことをしでかしたのか、その訳を聞いているんですっ!」 冗談で性別を変えられてしまったのでは、瞬としてもたまったものではない。 が、それよりも何よりも、沙織のその冗談を全ての聖闘士たちが真に受けたという事実が、瞬のプライドをこれでもかこれでもかと言わんばかりに傷付けていたのである。 「暇だったから」 怒髪天を突いた瞬とは対照的に、沙織は冷静を極めている。 「は?」 「最近ね、敵が攻めてこなくて暇だったから。みんなもそうだったでしょう? 楽しんでいただけたかしら」 「さ……沙織さん……」 慈愛に満ち満ちたアテナの微笑に、瞬ががっくりと肩を落とす。 瞬の、男としてのプライドは、はっきり言って、ずたずただった。 |