呆然としている瞬に、絵梨衣が、少し拗ねたように尋ねてくる。
彼女は既に吹っ切れているようだった。――そう見えた。
「どうして、言ってくれなかったんですか。私、まるで馬鹿みたいじゃないですか。それとも、本当に私を馬鹿にして笑ってたの?」

「僕は……」
もう、事実を隠して絵梨衣を励ますという芸当をしてのける必要はない。
瞬の肩からは力が抜けていった。
同時に、瞬は、瞼を伏せた。

「僕は、だって、絵梨衣さんはほんとに氷河を好きみたいだったし、今は僕を好きでいてくれても、氷河はいつか……って……。だって、僕は男だし……」

それは、実は、絵梨衣が二人の間に割って入ってくるまで、気にしたこともない事実だった。

「氷河がいつか僕から離れていってしまうのなら、最初から――最初から、他の人を好きでいる氷河を見てる方が、ずっと苦しくないのかもしれないって思ったんだ……」

星矢に、絵梨衣の気持ちを知らされるまで、本当に瞬は、その事実を気に病んだこともなかったのである。
素直に氷河の気持ちを信じていられたし、自分たちの未来を不安に思ったこともなかった。

瞬の前に、絵梨衣が現れるまでは――。






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