最初、氷河の屋敷の画廊に飾られたその絵は、数日をおかずして、氷河の寝室の壁に移動することになった。
少しでも長い時間、氷河はその絵を眺めて――見詰めて――いたかったのである。

下世話に言うなら、氷河はその絵の少年――見詰めているうちにそうだとわかった――に、一目惚れしたのである。

夏の朝の光を受けて、亜麻色に輝いて見える髪、優しい眼差しと、花顔にふさわしいしなやかな四肢。
見れば見るほど、その少年は清楚な風情をしていた。
それでいて、ほんのりと、人の目を誘う花のような色香があり、陽光を浴びた薔薇の花びらのような温かみがある。

まるで生きているようだった。
見詰めていると、花の香りさえ感じられる。

画家を、氷河は、天才だと思った。
画才ではなく、モデルを愛することにおいて。

氷河は画家に嫉妬すら感じていた。






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