翌日、氷河は、例の捜査三課の刑事を自邸に呼びつけ、彼に花の姿の消えた風景画を披露してみせた。

「ですから、あれほど警備を厳重にしろと言っておいたのに……」
そんなことは一言も口にしなかった刑事が、口の中でぶつぶつと文句を捏ねまわす。

彼は、氷河が次に言い出す言葉を怖れていたのである。
その言葉を封じるべく、刑事は盗難の被害者に釘を刺してきた。

「まさか、あなたまで、描かれていた少年を捜し出せなどと馬鹿げたことは言い出さないでしょうね? 絵は、ちゃんとここにある。盗まれたわけじゃない。盗難の事実はないんだし、これ以上私にくだらない仕事を増やさないでいただきたいんだが」

「いいや、俺はとんでもないものを盗まれた」
「何を盗まれたとおっしゃるんです!」

苛立ちを隠す様子もなく、刑事が氷河に尋ねてくる。

その質問を待ってましたとばかりに、氷河は刑事に言ってのけた。
「俺の心だ」

「貴様はクラリス姫かーっっ !!!! 」

間髪を入れずに、刑事が胴間声で氷河を怒鳴りつける。
いい歳をした刑事は、一応、宮崎アニメくらいは知っているようだった。

言ってのけてから爆笑した氷河を憎々しげに睨みつけると、こんなオタクの住む家には二度と来るものかと言わんばかりの勢いで、彼は氷河の家から出ていった。






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