問題の写真は、現像されたものでなく、デジタルカメラで撮ったものを専用紙にプリント出力したものだった。
かなり高画質で、写真と見紛うほどだったが、今時、ごく一般の家庭にも性能のいいプリンターは傍迷惑なほど出回っている。
その線から犯人を絞り込んでいくのは不可能のように思われた。

それでも氷河は、その写真を撮った者につながる何かを求めて、見たくもない写真を穴が開くほど見詰め続けたのである。

ひどく残酷な写真だと思うのに、その写真から受ける印象は何よりも清艶の感だった。
夜の闇に浮かぶ瞬の白い肌と、瞬の上と瞬の周囲に散る薄桃色の桜の花びらの様は、凄艶にも妖美にも見える。

自覚せずにごくりと息を飲んでいる自分自身に、氷河は慌てて喝を入れたのである。
そして、その時に、氷河はふと、その写真の不自然さに気付いた。

それがほとんどモノクロに近いアウトプットだったために、氷河はそれまで見落としていたのだが、本来漆黒であるべき部分のところどころに、僅かに青みが勝っている部分がある。
どうやら、それは黄色の一部に欠陥のあるプリンタリボンを使って出力されてもののようだった。
そして、氷河は、そういうプリンターに覚えがあったのである。

他ならぬ、この城戸邸の図書室にあるプリンターがそうだった。
つい先日、沙織が、知人向けに年度始めの挨拶状を印刷しようとして、その不都合をぼやき、新しいリボンを発注したばかりだった。

その件を思い出して、氷河は初めて、瞬に乱暴を働いた不届き者が、この城戸邸にいる可能性を考えることなったのである。
それまで氷河は、瞬にそんな真似ができるのは、“本気”になった時の瞬を知らない、身の程知らずの花見客の誰かだと思っていたのだが、闇に紛れて、そんな一般人の振りをした何者かが犯人ということも、全く考えられないことではない――のだ。






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