氷河は、紫龍の言うことを聞いていないわけではなかった。
彼の言いたいことも懸念も、理解してはいた。

だが。

「何かが足りないんだ……」

何かが足りない──。
喪失感は──欠如感は、あるのである。
だが、足りないものが何なのかがわからないのでは、それを手にするための行動も起こしようがないではないか。

自分に欠けている何かを求める気持ちだけはある。
その渇望は、恐ろしく強く激しく、ニル・アドミラリどころか、ムルトウム・アドミラリ──激情的──でさえあった。

そして、それだけが、氷河の持つ情熱なのかもしれなかった。





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