──なぜなのかは、わからなかった。
だが、氷河は急に、その少年を追いかけていきたい衝動にかられたのである。

この墓石のような建物の総支配人が、
「お出迎えが遅れまして、大変失礼いたしました。間もなく開幕です。ご案内いたします」
と、慇懃な態度で、氷河を大理石の建物の中に押し込めようとさえしなければ、氷河はその衝動に従っていたかもしれない。

「……今、行く」

氷河の倍は歳を重ねているのだろう総支配人に頷いて、氷河は、理屈では説明できないその衝動を振り払った。





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