「う……」 光が、まるで心を刺すように痛い。 痛苦と切なさでできているような光の照射を受けて、氷河は目を覚ました。 「ほら、氷河、起きて。朝だよ!」 「……眩しい」 「朝なんだから、当然でしょ」 氷河が瞼を開けると、そこに、オペラハウスの前で出会ったあの少年がいた。 服を着けていない。 シーツの上に座り込んでいる彼は、氷河の脇に両手をついて、からかうような笑顔を氷河に向けていた。 では、昨夜は、この少年と過ごしたのかと、ぼんやりと思う。 妙なことだと訝ってから、それはいつものことではないかと、氷河は思い直した。 「瞬……」 自然に、その名が口を突いて出てくる。 「なに? 不思議そうな顔して」 「瞬……か」 そして、氷河は思い出した。 ここは、女神の化身だという城戸沙織の住む屋敷。 その中の、自分に与えられた部屋。 幼い頃に失った母の面影、到底恵まれているとは言い難かった半生。 倒してきた無数の敵と、逃げ出すことのできない闘いの日々。 否、もしかしたら、氷河は、思い出したのではなく、一瞬にしてその世界を作ったのだったかもしれない。 朝の光の中にある瞬の笑顔は、まさに、彼が願い続けていた夢のように鮮やかに輝いていた。 「氷河……? ほんとにどうしたの」 怪訝そうな顔で重ねて尋ねてくる瞬を、氷河はきつく抱きしめた。 というより、氷河は瞬に抱きついていた。 「瞬……!」 「氷河ってば、どうしたの。大きななりして、子供みたい」 「地獄の夢を見た」 「地獄……?」 地獄の“夢”──。 それは夢のはずだった。 妙にリアルな、細部までよくできた夢──。 だが、もしかすると、あの夢こそが現実だったのかもしれない──と、氷河はふと思った。 今頃は、紫龍が、白い壁に囲まれた病室で、夢の世界に逃避してしまった友人の不幸を嘆いているのかもしれない。 何不自由なく、闘いも、悲しみも、挫折も、人に不幸と言われるようなどんなことも存在しない境遇にありながら、いったいなぜ、と。 だが──。 |