梅雨の明けた夏の空は青く高く、そして、遠い未来にまで広がっている。

翌日、一輝とエスメラルダは予定通りに式を挙げた。
――二人は、普段着で祭壇の前に立った。

誓約の儀を済ませて、教会の前庭に出てきたエスメラルダの白いワンピースを見て、瞬は心苦しげに瞼を伏せた。
「兄さんはともかく、エスメラルダさんは、ドレス、あったのに……。一生に一度のことなのに、僕のためにこんな――」

あの白いドレスが、女性にとってどれほど大切で意味深いものなのか――それがタキシードの比ではないことくらい、瞬にも容易に想像ができた。
身体を縮こまらせる瞬に、しかし、エスメラルダは軽やかな笑みを返してよこした。

「一生に一度のことより、これからの長い時間の方がずっと大事でしょう? 私、瞬ちゃんに辛い思いはさせたくないわ」
「でも……」

「一輝もこれでいいと言ってくれたし――それに、ドレスを着た私を見て、瞬ちゃんが自分もドレスを着たいなんて言い出したら大変だから。いくら私でも、女装癖のある弟は困るわ。それが私より綺麗だったりしたら、私の立場もなくなるし」
軽口を叩くようにそう言ってから、彼女は、瞬が身に着けている夏用の淡い色のスーツを似合うと褒めた。

「ごめんなさい……」
「実を言うと、最近ちょっと太り気味で、ほんとはちょっときつかったのよ、あのドレス。特に胸のあたりとか」

エスメラルダの気遣いに触れて、瞬がじわりと涙ぐむ。
自分の我儘は、氷河のためを思ってのことではなく、この優しい女性や兄の気持ちをないがしろにした卑小な行為だったのだと、瞬は今更ながらに思い知らされていた。

そして、瞬は、今日から自分の姉になってくれたその女性を、これまで以上に好きになっていた。






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