オリュンポス山から直接エチオピアにやってきた北の国の王は、まだ若く美しい金髪の青年でした。

ヒョウガと名乗ったヒュペルボレオイの王は、奴隷としてやってきたというのに、エチオピアの王の前でも尊大な態度を崩そうとはしません。

これなら、神々の前にただ立っているだけでも不敬の極みと思えるような、他人を見下した目つきと態度。
エチオピアの王は、この男なら不敬の罪も平気で犯すに違いないと、即座に得心できてしまったのでした。

しかも、彼は、奴隷として他国の王宮にやってきたというのに、自分の生活を快適にするための彼自身の奴隷を幾人も連れてきていて、それがエチオピアの王を更に呆れさせたのでした。

「俺は、この国の王弟の奴隷だが、他の誰の奴隷になるつもりもない」

不遜なヒュペルボレオイの王の態度に、彼の主人となるエチオピアの年若い王弟はほとんど怯えてしまっていました。
けれど、その傲岸な北の国の王は、王の横に控えている彼の主人の姿を目にとめると、その前に深々と腰を折ってみせたのです。

「俺の主人は君か。何なりと用を申し付けてくれ」
言葉使いは不遜なままでしたが、その所作は一応、主人に仕える奴隷のそれでした。

「は……初めまして。僕がこの国の王の弟で──シュンといいます」

エチオピアの王の弟は10代半ばの、まだ首の細い少年でした。
シュンは、奴隷としてやってきた強大な国の若い王に、戸惑いを感じていました。

北の国の王はまだ青年でしたけれど、シュンよりはずっと年上で、本来なら、王でも何でもないシュンの方が腰を折らなければならない相手です。
しかも、ゼウスの息子という噂もある、謎めいた人物。
シュンは、彼にどういう態度をとったものかを、この期に及んでも決めかねていました。

「でも、あの……できれば、お友だちとして滞在してくださいね。奴隷だなんて、言葉の上だけのことにして――」
「俺は、君の奴隷だ。そうなるために来た」
「あ……」

北の国からやってきた金髪の王は、シュンに有無を言わさず、ほとんど強引に、シュンの奴隷の地位に収まってしまったのでした。






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