ところが、ヒョウガの評判は、シュン以外の人間には最悪でした。 王という身分を考えれば当然のことなのかもしれませんが、奴隷としてエチオピアの王宮にやってきたはずの彼は、王宮の人々に、 「俺はシュンの奴隷なのであって、シュン以外の誰にも隷属していない」 と言い放ち、王としての自分の生活を維持し続けていました。 与えられた部屋には奢侈な家具や衣装を運び入れ、故国から連れてきた奴隷たちに身の回りの世話をさせ、エチオピア王とすらまともに話をしようとしません。 この機会に北の国との友好をと考えて、礼を尽くして面会を求めたエチオピアの高官・貴族たちにも、彼等の夫人や令嬢たちにも、彼は素っ気ない態度をとり続けました。 ところが、シュンの前に出ると、彼は、借りてきた猫よりも大人しく従順になるのです。 着替えの手伝いから、給仕、警護。 ヒョウガは、時には、シュンの小さな足を包むサンダルの手入れさえしてみせました。 彼は、シュンに対しては、本物の奴隷でもするまいと思えるほどの気配りを見せ、卑屈に思えるほどにシュンの意思に従うのです。 シュンは、そんなヒョウガに恐縮しきっていました。 そして、エチオピアの王宮の誰ひとり、シュンの耳に他人の悪口を吹き込もうなどとは考えませんでしたから、シュンは当然のこととして、ヒョウガの悪い評判を知らないままだったのです。 |