「アテナ、ヒョウガを必ず守ってくださいね」 「神々との契約によって与えられた国に帰れば、神々もヒョウガには手を出せません。心配しなくていいわ」 シュンにそう告げてから、アテナはヒョウガの方に向き直りました。 「早くここを出ましょう。シュンは神々のお気に入りの人間だったので、オリュンポスの神々は皆、自分の名誉を汚されでもしたかのように憤慨しているのよ」 「なのに、なぜ俺を助けるんだ」 「私はあなたを助けるわけではありません。シュンを悲しませたくないだけ」 「そうか――」 そういう理由で、アテナが、愚かな男の命を救おうとしているのなら、彼女の行動は、ヒョウガにも得心できるものでした。 「ヒョウガ、気をつけて」 「シュン……」 何か大きな運命の変動が起きて、神々が気を変えでもしない限り、おそらくこれが、二人の今生の別れになります。 エチオピアの国を去るヒョウガの目に最後に映ったものは、痛いほどに切なげな色をしたシュンの二つの澄んだ瞳でした。 |