それから氷河は、どこかに出掛ける時には、必ず僕に教えてくれるようになった。
どれくらいで帰ってくるかを告げ、その時刻に合わせて、リビングの置時計のアラームをセットする。
氷河の帰宅が、その時刻に遅れることはなかった。

氷河に、
「出掛ける」
と言われるたび、僕は、
「帰ってくる?」
と尋ねる。

『何時に?』とは聞かない。
帰ってくる時刻は付随的な事柄で、僕には、氷河が帰ってきてくれるということこそが大事だった。

「ああ」
氷河の答えを聞いて、
「待ってる」
僕は素直に頷く。

我儘を言って、氷河に鬱陶しがられるのが恐かった。






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